Orfeon Blog
読んだ本の要約、感想など。 他にも日々思ったことをつれづれと書き連ねます。
ほしのこえ
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(おおまかな物語)
同じ部活で仲の良い中学3年の美加子と昇。しかし中学を卒業した美加子はかつて火星で人類を襲った異星人を追跡するための調査員として宇宙に旅立つことになる。地球と宇宙に離れた2人はお互い携帯のメールで連絡を取り合うが、宇宙船が地球から離れるにつれてメールの送受信に要する時間は開いてゆき、そしてその開きは決定的なものとなっていく…
こうした恋愛が絡む物語はその恋人達だけに焦点を当てて描かれることが多いのでしょうが、本作は時間や予算が限られていることもあってかそもそも他の登場人物がいません。地球に残された昇にも、高校でのクラスメイトや家族との新しい生活があるだろうし、宇宙に旅立つに美加子にしても、他のパイロット仲間との関係などの新しい生活があるであろうところが、そういった社会との関係は一切省略された二人だけの閉じた世界で物語は進んでいきます。 そして離れているが故か、その関係は初々しいまま続いていきます。 現実はそうした純粋さに没入できるほど生易しい世界ではありえないとわかっているからこそ、そうした淡い理想が純粋に描かれた世界観に、それが純粋であればある程強く惹かれてしまうのかもしれません。
本作では美加子と昇はお互いの連絡に携帯のメールを使っていて、私達が日常で送ったらすぐに届く感覚で利用しているメールが、宇宙船が地球を離れるにつれ徐々に、週、月、そして年という次元の時間を経ないと届かなくなってゆき、離れ行く2人の間に横たわる距離が絶望的になりつつあることを強く印象付けられます。
そして、一番の見所はやはり最後の、遠く離れた2人が地球で過ごした日常の情景を振り返りゆく場面でしょうか。2人の間で思い返される地球での懐かしい情景、雪の降るなか昇が遠く離れた美加子に想いを馳せる情景が美しく哀愁を誘い、同時に流れる主題歌の「through the year and far away」が切なさを引き立てます。
本作は個人制作であることからか、25分と短いこともあって、設定やストーリーに多少粗い部分はあるかもしれませんが、描かれている世界は純粋で、自分の場合、特に懐古的な演出にはめっぽう弱いこともあってかなり引き込まれてしまいました。ひょっとしたら、今年で卒業となり荷物をまとめるために深夜に訪れた、同輩達の机が綺麗に整頓されている事以外はいつもと変わらない研究室で一人観たこともノスタルジーを誘ったのかもしれません。個人が独力で制作したことに対する興味だけでなく、ちょっぴり切ないノスタルジーに浸りたい人にもお勧めしたいと思います。
粗さはあるもののこのクオリティの作品がほとんどが個人の手によるものであることは驚きでした。個人による制作であると、粗さなどの弱点はあるものの、より深く統一された世界観を提供できるチャンスがある、と制作者の方も言っておられますが、こうした流れが上手く作用して、それぞれ深い世界観を持った様々な物語を楽しむ機会が増えることを楽しみにしたいと思います。
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