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読んだ本の要約、感想など。 他にも日々思ったことをつれづれと書き連ねます。

大前流心理経済学 

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
大前 研一

講談社 2007-11-09
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☆☆☆☆
中国特需などにより一見好景気かに見えるが、多額の赤字財政、年金問題、少子高齢化などの構造的な問題から、長期的には大きな問題を抱える日本経済。そんな日本経済を立ち直らせるための大前氏の独自の提言をまとめた本。
政策立案的な視点からの提言であるため、直接役に立てるために読むというよりは、日本経済におけるさまざまな問題点を知ること、本書で立案された政策を通じて著者のユニークな発想を楽しむことが本書を読む醍醐味かと思います。
特に後者について、著者の問題の分析も面白いのですが、問題の解決方法として、少し現実離れしているかもしれませんが、実際に生活者の生活がどう変わるかイメージできるような構想まで提案していることが大前氏の本の面白いところだと思うので、構想力の肥しとして読んでみてはいかがかでしょう。

「要約」
衰退期に入った日本経済的を立て直すために、これまで国は内需拡大のために公的事業や特定の(国際競争力のない)産業に財政出動させたのだが、効果は財政を投入した直後だけしか続かずまったく効果は上がっていない。また経済政策として低金利政策も取っていて、これは低金利にすることで企業が借金がし易くなりその分設備投資や在庫が増えて消費が上向くことを狙ったマクロ経済学の定石なのだが、グローバル化した経済圏では設備投資が国内ではなく海外に向かううことや、優良企業は銀行から借りなくても自前の余剰利益で投資を行えることなどにより効果は薄く、逆に低金利で生活者の利益が小さくなり消費は冷え込む傾向になり効果は上がらなかった。逆に金利を高く設定したアメリカは生活者の資産(ストック)を向上させて消費(フロー)をよくし、また高金利で世界中から投資が集まるためドルが(買われて)インフレに陥らず景気を維持している。
しかし一方で日本人は1500兆円にも上る個人資産がまったく金利のつかない銀行で眠っている。この個人資産の大部分はお年寄りのものである。老後の貯蓄額の大きさは安定を求める日本人特有のものでもあるが、同時に日本人がライフプランを持っていないことの証拠でもある。景気を上向かせるにはこのお年寄りの資産を消費に結びつける必要がある。一般にお年寄りは介護を必要とする程の弱者と考えられているが実際にはそれほど弱る人の割合は高くなく、アクティブな老後の生活を提案することができれば、お年寄りもお金を使うはずである。アメリカにある、お年寄りだけが暮らし、同じ趣味などを持った人同士で集まるコミュニティが多数存在するような町があれば日本のお年よりもアクティブなシニアになることができるはずである。また都内の狭い住宅に多くが住む団塊の世代は老後の移住のニーズが高く、都心から比較的近い関東圏の住みやすい環境を整えれば住宅産業の刺激にもなる。
お年寄りに生活にアクティブになってもらう一方、日本人が資産運用にもっとアクティブであれば資産(ストック)が上昇し、それだけ消費(フロー)が伸び景気も上向くはずである。まったく利子のつかない銀行に自分の資金を預けるのではなく、低利子でお金を借りて高い利子の付く海外で運用すれば低リスクでリターンが得られるのに誰もやろうとしないほど資産運用への意識は低い。しかし日本人の巨大な個人資産をまとめてファンド化して海外での投資に向かわせれば、ファンドとして大きな影響力を行使でき、よりよい投資機会を得やすくなるだろう。国としても資産運用の不得手な国民がスムーズに投資になじむための施策を打つ必要がある。たとえば著名なファンドマネージャーをたくさん雇ってファンドを組んで競争させれば、たとえ契約が高くつくものでも無益な公共事業などよりははるかに低費用で効果的であろう。ちなみに中国などでも国家が運営するファンドを作っているが、こうした国家ファンドにはマルチプルファイナンスの力が政治的な目的に使われる危険性もある。日本も国家ファンドを持つことになってもあくまで収益にこだわるべきである。ひとたび資産運用が大きな利益を生むことがわかれば、日本国民の資産運用意識も一気に変わるのではないだろうか。
ここまでは政策立案の立場から意見を述べたが、このままいけば巨額の財政赤字や年金問題などから国は国民から搾取する側に回る。そうなる前に資産運用の勉強を進め、あるいは若い人は日本の外で活躍できる力を培うべきであろう。またライフプランにも意識的に取り組んで楽しい老後を過ごせるようになってもらいたい。
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Posted on 2008/01/12 Sat. 23:59 [edit]

category: 読んだ本

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12

愚か者の哲学 

愚か者の哲学愚か者の哲学
竹田 青嗣

主婦の友社 2004-08-25
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☆☆☆☆☆
難解なイメージで敬遠しがちな哲学ですが、よりよく生きるための知恵としての哲学を、著者の視点からかなりわかり易く説明されていてお勧めです。

要約
人の歩む人生を子供時代、若者時代、大人時代、の3つに大きく分け、人がそれぞれの時代でぶつかる悩みを取り上げ、なぜ人は苦悩するのかについて、これまで歴代の哲学者が考察してきた知恵をわかりやすく噛み砕いて説明しています。

【子供の哲学】
動物は本能のままに生きますが、人が動物と異なる点は、自我によって生きていることです。自我とは、感覚、感受性、美意識など世界を感じる能力であります。特に人の世界を感じる能力は、人が成長していく上で無意識に身についてゆくルールの束とも表現できます。このルールはまず親から与えられます。子供は好奇心からいたずらをしますが、親はこれを叱るのですが、いつか子供は好奇心や快楽よりも、親から褒められるというエロスを覚えるようになります。これによって自我の基本とも言うべき、人との関係性、他者から評価されることの快楽、自己愛に目覚めていきます。 この価値の自己ルールの束は、大きく、真偽、善悪、美醜についてのルールに分けることができます。 この自己ルールが他者や社会のそれとよく一致する場合は自我が安定していて、うまく人と折り合ってゆくことができます。健全な自我の標識は、
① 自分の真善美のルールを自立的にしっかり作り上げている
② 価値の自己ルールを固定的に考えず他者関係の中でそれを調整してゆくことができる
③ 自己ルールを社会的な能力として活かしていくことができる
の3つが挙げられます。特に①の形成は親子関係による影響が大きいため、ここで折り合いがつかない場合は、両親間でのルールが逆である、親のルールが社会のそれと違う、親のルールが自分の都合により与えられている、などの親子関係のねじれを原因として考えることができます。

【若者の哲学】
親の言うとおりの方法で大きくなっていった子供は、言葉のボキャブラリーがある程度増えると、親のルールから自由に思考するようになります。そして人から認められたいという自我が強烈に膨らむ時期である若者は、その自由から自分を正当化することにより、自分という存在のかけがえを実感することに思考のエネルギーを注ぐようになります。しかしこの自己意識の自由は内面だけの自由であり、現実には親や社会のルールに縛られ、挫折することになるのですが、ヘーゲルはこの挫折に反応する3つの類型を示唆していて、
① 誰からも認められなくても自分は自分である
② どんな人の見方や考え方だって相対的なもので絶対なんてありえない
③ 外から宗教や思想などの強力な世界観を自分の物語とする
といった自己意識の持ち方を挙げています。しかし人は社会で生きていく上では他人からの承認がなければ自然な自己価値を見い出すことはできず、結局大人になり、他者からの承認を得るためのゲームに参加することになります。他者からの承認としては、社会的な成功という尺度と、人間として尊敬されるという尺度の2つがあります。人は大人になるにつれ、必ずしも社会的に成功しなくとも人として承認されれば幸せになれることに気づいていきます。この人間として尊敬される人の中身として、最初に出た「真・善・美」の自己ルールが挙げられます。善悪は他者との関係におけるルールの基準として、美醜は人の感性として、真偽は絶対のルールの無い選択肢に対して自分が選んだことを肯定する感覚へのこだわりをそれぞれ表します。このルールを確立できない人は他者や社会の目が過剰に気になり、自分の判断に不安を覚えるようになります。また他者とのルール関係を経ずにできたも自己ルールは独善的なものに陥ります。このように自分というものは他者とのルールの交流を通じて作り上げていくものです。そして他者とのルールによって影響を受けて自己ルールを変容させるときに、人は生の意欲を欲望を充足させることができるのです。
「ほんとう」
人は限りある生の中で「ほんとう」(の人生)を追い求める生き物でもあります。ハイデカーは人は一度きりの人生でなにがほんとうであるかの配慮こそ、人間にとって本性的であり、挫折からニヒリズムに陥るときに人はその本質を捨て去るのだとしています。ヘーゲルは人がほんとうを追う流れを5つのステップで説明していて、まず自分にとって都合の良い自己ルールで自分の中だけで完結するほんとう、一人よがりのほんとうに挫折したときに生の快楽をただ享受することだけを目指すほんとう、男女が互いのロマンを射影しあうロマンのほんとう、正しい人間として生きることを目指すほんとう、そして最後にその人の人間性の表現(極端な例だと文学や芸術作品)を世に問うことから得られる承認、互いの自由を認め合いながらよいものを目指す承認ゲームの中で得られるほんとうを挙げています。人はほんとうというロマンや目標を失うと生きる意欲を失てしまいます。歳を取るにつれて失いがちなほんとうをうまく生き延びさせることが人間と社会にとって大切なことです。
「恋愛」
恋愛はそれだけで生きる意味を満たしてくれるという不思議なものです(そして自分にとってかけがえの無い人を得られる悦びは、その人を失うことの絶望と裏表一体でもあります)。この恋愛が特別なのは、社会的な役割から離れた自分自身を受け容れてもらえると感じられる幻想、そして社会や人の承認ゲームで得られる至高性は得るために大きな努力が必要で現実的に考えることが難しいのに対し、恋愛ではこの至高性(この恋人を得られれば生の意味そのものをつかめるという直感)を誰でも手に届きそうだと感じさせるところにあります。恋愛から得られるエロスには、人が持つ美しさとロマンの結晶化と、他人から無条件に承認されるという関係性からのエロスの2つからなります。つまり自分にとってもっとも美しく価値があると思う存在から無条件に自分が受け入れてもらえるという悦びです。このうち最初の美しいものに対するエロスは、その人が持つ美とロマンを結晶化したものを恋人に射影したものですが、しばしばそのロマンは現実に打ち砕かれることになります。しかし人はその本質からロマンを追い求める生き物でもありロマンを捨てることはできないのです。

以降、「大人の哲学」で失恋や絶望、ニヒリズムなどについて述べられているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

感想
本書を書く上で著者が参考にした哲学者にも生きることに対していろいろな考えを持った人はいると思いますが、著者のスタンスとしては、人間として生きる上で味わう楽しさつらさをすべて含めて生きることの醍醐味とし、人生を肯定するということでは一貫している人生賛歌の本であるように思いました。 人は自分の人生にロマンを抱きつつも挫折の中で大人の知恵としてロマンを現実に適応させて生きていきます。でも、ロマンをもてなくなってしまった大人は救いようの無いバカ、という著者の言葉がありますが、この理想と現実への適応とのバランスは、人が生きていく上で本当に難しい問題だと思います。 本書で述べられている、どんなに挫折を味わってもロマンを追い求めずにはいられない人間性、と、他者との関係の中から自分を作り上げそれに悦びを見い出す人間性、のお互いをカバーし合うことが、本書に込められたよりよく生きるための知恵なのかもしれません。
ちなみに自分が本書を読んだ当時はちょうど失恋中だったのですが、直接自分にとって救いになるような言葉はないものの、本書では(恋愛を含め)人生に強くロマンを抱かずにはおれない人間を肯定しており、ロマンが挫折にぶち当たっても究極的には人との関係性の中でしか人は喜びを得られないという示唆は、ちょっとずるいと思う反面、たとえ報われなくとも人に想われたいという気持ちは肯定されてもいいんだなという安心感を与えてくれたのを覚えています。

Posted on 2007/09/23 Sun. 17:19 [edit]

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入門! システム思考 

入門! システム思考 (講談社現代新書 1895)入門! システム思考 (講談社現代新書 1895)
枝廣 淳子 内藤 耕

講談社 2007-06-21
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☆☆☆☆
ビジネスや組織活動において、様々な問題を解決するために50年代にMITで考案され、GEやGE、デュポンなどの企業で取り入れられ成果を挙げているという”システム思考”を紹介した本です。最近は様々な問題解決の本が書店で見られますが、本書で取りあげられているシステム思考は複雑に絡み合った要素の"因果関係"を解き明かすことに重点をおいていて、問題を明快に分解して確実に論点を絞り込んでいく分析的な論理的問題解決法のような明快さはないものの、原因→結果→原因など原因と結果が相互に影響を与える関係や、時間差を伴って現れる関係など、意識しないと気づきにくい問題の構造が、環境問題から習い事が続かないなど身近なケースまで様々な例とともに紹介されています。今より少し広い視点から問題を考える癖を磨くためのよいきっかけになる本ではないかと思います。

本書で紹介されているシステム思考で用いられるツールは2つあります。
 1 ) 時系列変化パターングラフ
 2 ) ループ図
1)のマップは自分が改善したいと思う要素やそれに関連すると思われる要素を縦軸に、時系列を横軸にとったグラフで、グラフ中で過去の軌跡、このままだとたどると思われる軌跡、望ましい軌跡をみいだします。 このツールの主な目的としては時間的な中で因果関係を考えるきっかけになることが挙げられ、近視眼的にならないように時間軸は長く取るのがコツだそうです。
次のループ図はシステム思考の基幹ともいえるツールで、それぞれの要素の因果関係をグラフでつないでいくことによって関係性を可視化します。グラフでは要素間の因果関係の他に、その因果関係がプラスに作用するのかマイナスに作用するのかも同時に書き込みます。そしてできあがったループ図からループするパターンを見出します。現在の変えたいと思う状態は何らかの因果関係がループ上に働くことで悪い方向に向うか悪い状態にとどまってしまうと考えるのがシステム思考の特徴でしょう。そして見出したパターンの連鎖を止めるためのポイントを因果関係から見つけて対処することでひとまず解決となりますが、解決は往々にして予想もつかない所から次の問題の発生につながっているため、こうした因果関係を常にチェックすることが大切であるとしています。
そして次に、システム思考から導かれる知恵として、今日の問題は昨日の解決から生まれる、解決のつぼは解決とは一見遠いところにある、問題パターンはあくまで構造が引き起こしている、人や自分を責めない、世の中には副作用はなくあるのは作用だけ、システム思考はコミュニケーションツールでもある、などが紹介されています。他にも、強者はより強くなる、共有地の悲劇、成長の限界、などシステム思考を通じて頻繁に見られる因果関係のパターンも紹介されています。
こうしたシステム思考を実問題に用いる際に大事な点は、システム思考をコミュニケーションに用いることであるとしています。チームで問題に取り組む際にはメンバーと問題点を共有化することがまず解決のための第一歩になるのですが、このように因果関係をグラフで表すことで問題の構造を共有しやすくなります。そして問題を属人的な原因として捉えるのではなく、あくまで構造から起こるものだと考えることを促し、より効率的にメンバーで解決策を練ることに専念することができます。

本書で述べられているシステム思考の要点を自分なりにまとめると、時系列を交えた因果関係のループパターンを見つけ出す、ことに尽きると思うのですが、問題解決のアプローチとして問題をループ(悪循環)に絞っていたのは少し新鮮でした。そして悪循環を見つけるためには物事の因果関係を幅広く把握しないといけないのですが、そのためのシステマテックな方法までは本書では述べられていません。やはり問題を解決するためにはある程度のセンスや努力が必要なのでしょうが、本書は因果関係はいたるところに存在していることに気づかせてくれます。そうした気づきから少しずつ考える癖が生まれてくるのかもしれません。
ただし本書でも少し紹介されていた因果構造の頻出パタンはいろいろとあるそうで、同じ著者がそれらをまとめて書いた「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?」という本があるそうなので機会があればそちらも読んでみたいです。

Posted on 2007/07/20 Fri. 00:12 [edit]

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20

iPhone 衝撃のビジネスモデル 

仕事の関係でケータイ関連についていろいろと興味を持って読んだ本の紹介を。
iPhone 衝撃のビジネスモデルiPhone 衝撃のビジネスモデル
岡嶋 裕史

光文社 2007-05-17
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☆☆☆★
本書は最近流行のiPhoneを題した本なのですが、既存の携帯電話に対するiPhoneの優位点だけではなく、PCを中心としたWeb2.0的なビジネスに対して携帯ビジネスが持つビジネスモデル上の優位点などが述べられている点が面白かったです。
内容的にはそれほどボリュームがあるわけでもなかったので評価は3.5としましたが、この本で述べられている点はとても明快で、携帯の持つ、ビジネスモデル上の優位点と、デバイスが持つインタフェースがこれから重要になる、ということに集約されます。
ビジネスモデル上の優位点としては、Webで支払いをするためにはクレジットカードの番号などを入力する必要があるのに対して、携帯で買い物をする場合、支払いを携帯代金に上乗せして済ませることができるため、手間やプライバシーなどを気にかけることなく気軽にできることを挙げています。 こうした気軽にできる支払いなどから、コンテンツの無料化が進むWebに対して、良いコンテンツに対してはお金を払ってもよいと考えるユーザが相対的に多く存在し、携帯Webでは今のところコンテンツ販売が成り立っており、それによるコンテンツ市場の拡大が更なる革新的なサービスを生む機会となるのではないかとしています。
韓国でオンラインゲームが発展した理由としては、若年者でもコンテンツ使用料を携帯電話の料金に上乗せでき、気軽に支払いができることから利用者の拡大につながったことが大きな理由として挙げられているのを読んだことがあるのですが、確かに気軽に支払いができるということはあなどれない大きな利点でしょう。
次に著者が強調しているのは、携帯が持ち運び可能でいつでも利用できることからユーザの利用機会がPCに比べて大きい点、そしてユビキタス社会の統合インタフェースになるのではないかとしている点です。これまでユーザは様々な電器機器が発売されるたびにその使い方を覚える必要に迫られ続けてきたのですが、これからくるとされるユビキタス社会では、現実世界のいたるところにアクセス可能な機器が存在するようになり、それぞれの操作法を覚えようとするとますます使いこなすための労力が増すと考えられます。そこで携帯がそれらすべての機器にアクセスする際の玄関となるインタフェースとなれば、携帯の利用機会は爆発的に増えるのではないだろうか、と著者は述べています。カメラやマイク、加速度センサなどの共通の規格のデバイスを組み合わせれば、様々な情報へ言語以外の問い合わせからアクセスすることができるようになり、そのためにインタフェースのデザインが携帯の使い勝手の決め手になるのではないかとしています。 そうした流れになれば、ユーザインタフェース分野では昔から強みを持つアップルが携帯電話業界で台頭する可能性も大きいのではと予測を立てています。
ここで述べられている、携帯がユビキタス時代の総合窓口になるという考えは、面白いもののそれが実現するにはまだだいぶ時間がかかりそうに思います。 それよりもこの本で印象に残ったのは、ユーザがコンテンツを作る際の金銭的なインセンティブが無ければ、Web2.0は大企業に富が集中する広告モデルに行き着き、ユーザの自発的なコンテンツ提供が減衰していくのではないか、と著者が投げかけた疑問でしょうか。著者は、コンテンツ課金が成り立っている携帯ビジネスで今後さらにユーザが作るコンテンツが発展していくのではないかとして結んでいますが、一般人が作ったコンテンツから利益を上げられるような時代が来るのかどうかは非常に興味深い命題だと思いました。

Posted on 2007/07/11 Wed. 23:46 [edit]

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11

次世代ウェブ 

次世代ウェブ  グーグルの次のモデル次世代ウェブ グーグルの次のモデル
佐々木 俊尚

光文社 2007-01-17
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☆☆☆☆
感想
ちょっと前まで自分もWeb検索関連の研究を行っていたこともあって、Web関連でのビジネスやネットユーザの動向に興味を持って読んでみました。 検索支援の際に他のユーザの行動を利用したり、自分にあったコミュニティを見つけるための技術やそれが目標とするところについては知っている所が多かったので、評価は☆4つとしましたが、Webビジネスがどういう方向で発展しつつあるのかについてのバッググラウンドや示唆を得るためにはとても良い本ではないかと思います。
一番印象に残ったのは、最後の方になりますが、仮想世界から現実世界にお客を誘導する音楽ビジネスの話でしょうか。何でもWeb上で済ませてしまえる便利さを売りにしたサービスが次々と出てくる昨今、それを撒き餌にしてしまって、あえて現実世界でのサービス提供に力を注ぐという発想は自分にとっては新鮮でした。もっとも収益システムなどもまだまだこれからなのでこれからどうなるのかはわかりませんが、もしそういう仕組みが働くようになると、たとえば音楽であれば、圧倒的に稼ぐようなミュージシャンは少なくなっても、今まで以上に音楽を人に聞いてもらえる機会がより多くのミュージシャンに与えられることになって、それによる質の変化についてはひとまず置いておくとしても、より多くの人が何かをクリエイトして発表すること自体が身近なエンターテイメントとなるような時代が来たら来たで面白いだろうな、などと思いました。

要約
近年、Web2.0などの言葉が喧伝されるようになり、日本でもネット系のベンチャーで成功する人もたくさん出てきているが、そうした日本におけるネットベンチャー成功者に共通する要素として、もちろん技術力も必要ではあるが、営業力が欠かせないことがわかる。今までの成功したネットベンチャーを振り返ってみると、初期はネット環境が一般消費者には広がっておらず、法人を相手にしたビジネスが中心となり、企業相手では営業力が大きくものをいう世界であったため、強い営業力を持った会社が力を伸ばし、上がった知名度を利用してさらに力を伸ばすという型がしばしば見られた。しかし通信インフラの整備や一般のネット人口の増加などの環境の変化が起こり、近年では技術力やビジネスモデルの秀逸なベンチャーが誕生している。新しいネットベンチャーは様々なビジネスモデルを展開しているが、それらの多くはWeb空間に存在する巨大なデータベースと、それを利用しようとする人たちを効果的に結びつけるための「UFOキャッチャー」としてのサービスの向上を志向している。今後より多くの企業が「UFOキャッチャー」としてのサービスの向上を目指し、そうしたサービスが社会を変えていくことになるだろう。

まず法人向けのナレッジマネジメントで成功した事例を紹介する。もともと中古車販売店であったクインランドは、成績のよい営業マンの行動レベルまで落とし込んだスケジュール管理を他の営業マンに強制させることによって、効率的に営業での知識共有を目指したシステムを開発したところ非常に上手くいき、それを他企業に外販するビジネスモデルを展開して成功した。ここでは顧客に対してこちらのとるべき行動を示唆するために顧客の行動を数値化してデータベースに収めて利用している。次にクインランドは一般顧客向けに中古車販売のポータルサイトを製作した。このサイトの画期的なのは、現在Web2.0的であるといわれる、掲示板など顧客同士が情報を交換する場を作って顧客の訪問数を上げ、そこでの顧客の行動に応じたサービスを提供することで契約成受率を達成した点である。さらにクインランドは地元の神戸での商店などを巻き込んだ地域コミュニティのポータルサイトを作って成功させている。ネットによって零細企業もより多くの人に知ってもらう機会が増えたが、多くの零細企業はITに対してスキルを持たないため、こうしたポータルはありがたがられた。オーケーウェブなども一般人を対象としたちょっと知りたいことなどを掲示板で書き込んで質問すると知っている人がそれに答える、知識共有サービスを提供している。こうして蓄積されたQ&Aデータベースとシステムを外部の企業にアウトソースすることによって収益を上げるシステムを作り出した。近年ではユーザが自然に作り出したデータベースのインフラ化が進んでいる。こうしたインフラを利用して、圧倒的に裾野の広いWeb世界で中央集権的にサービス提供者と一般ユーザのマッチングを握ることで利益を上げるのがアマゾンやグーグルである。

そうした中、ショッピングモールにおいて日本で成功している楽天はWeb2.0型企業とは言い難い。確かに消費者の感想や楽天ブログのアフィリエイトなどユーザの作り出すコンテンツは数多くあるが、楽天が成功した要素は、ポータルによる巨大集客力と、出展店舗にとって使いやすいECシステムが挙げられる。集客について、今後、ロングテール化などによって消費者がそれぞれの嗜好にあった様々な商品≒商店に興味を持ち出すようになると、一握りの有名サイトが集客力を持ち続けるYahoo!のような階層型ポータルサイトから、様々なサイトにチャンスが分散するGoogleのような検索システムに移行していくと考えられ、楽天のようなポータル型も相対的に魅力を失って中抜きにされるのではないかと考えられること、他のサイトがAPIサービスなどの提供によって、安価で簡単にECシステムを提供するようになると楽天の優位性が失われること、などの弱みが考えられる。さらに、楽天に参加する商店を比較する際、基本的には用意されている比較システムでは値段がメインに比較されるため、値下げ競争に陥りやすく、参加店舗の体力が消耗しやすい。また消費者側からも同じような品揃えの店舗ばかりで面白いくないとの意見も聞かれる。楽天はさらに多くの魅力的な店舗を増やすためには、それぞれの店の個性を伸ばすための提示方法を工夫するべきであろう。

様々な概念を内包するWeb2.0においても、SNSやブログなどのコミュニティ関連の重要性は非常に大きい。それらがなぜ重要であるかというと、今まではWeb上でのマッチングを担ってきたYahoo!などのポータルサイトであるが、一般ユーザはSNSやブログなどの情報から自分の興味を刺激されて情報にアクセスする傾向が高まり、既存のポータルとしての価値が減少していくことが挙げられる。代表的なmixiは交換日記型のサービスを主導にして短期間で圧倒的なシェアを得た。これに対して、Yahoo!の井上社長は、今から交換日記のサービスによってmixiからシェアを奪うのは先行者が圧倒的に有利なので不可能であるが、SNSの本質は日記ではなく人間関係のダイアグラムにある、とし、Yahoo!がユーザに対して提供するサービスに付加する形で人間関係に関する情報を取り込む方法によって追い上げようとしている。そこで集めた人間関係に関する情報は、日記ではなくとも、サービスに対する行動情報やレビューなどを利用して、ユーザに対してより適切、効果的にサービスを提供することが可能となる、としている。こうしたコミュニティを重視する流れはオンラインゲームにも現れ始め、現実世界での人間関係を取り込んだゲームを製作することで、ゲーマだけではなく、一般のネットユーザをゲームに呼び込み、そこで現実世界の延長としても遊びを楽しみつつお金を落としてもらうためのサービスが考えられている。「セカンドライフ」などではネット上でのお金が現実のお金との兌換性を持つことから、それがもたらす影響については賛否両論あるが、これからは人間関係だけでなく様々なものが現実世界と仮想世界がシームレスにつながっていく方向に進んでいくのではないだろうか。

人間関係のダイアグラムにはさらに大きな可能性があると考えられる。 検索エンジンでは世界トップシェアを持つGoogleは、Web上の巨大なデータベースからユーザにとって必要な情報を持ってくるためのアルゴリズムと、それをとても速く低コストで行うためのアーキテクチャーを開発することで今日の成功を手に入れたのだが、ユーザにとって必要な情報を持ってくるための精度をさらに上げるために過去のユーザの行動履歴を用いるなどの工夫が行われている。しかし過去のユーザの行動利用にも限界があり、ネット上の行動履歴ではそのユーザのその場の嗜好を掴むことは難しいであろう。そこで、ユーザが何かに興味を持つ際は周りの人間に影響されることが多く、ここでも人間関係を利用した支援が有効になると考えられる。しかし、そうしたソーシャル的な情報を用いて成功しているはてなブックマークは大きくなりすぎて、昔から利用していたユーザの中には、提示される情報の(その人の嗜好に沿った)質が落ちた、と考える人も出てきている。より多くの人が利用するようになれば、潜在的にたくさんの手がかりが得られるものの、それだけそこで提示される情報も平均化してしまう危険性も伴う。こうしたリスクに陥らないためには、情報をそれぞれの人に合わせた形で分類することが有効であるが、その際に有効となるのが、それぞれの人が現実に所属する様々なコミュニティに関する情報である。こうした情報をWeb上に取り込んだシステムはいまだ存在しないが、うまく取り込むことができればより強力な検索システムが出現するだろう。

これからのWeb技術は、現実世界にある情報を仮想世界に取り込む、仮想世界にあるテキスト以外の情報もウェブページと同じシステムの上で利用できる、という方向で進んでいくのではないだろうか。現実世界に関する情報としては、個人の健康状態を取り込むことで健康管理をリアルタイムで管理したり、RFIDによって流通プロセスを管理してコストを少なくする、等、様々なアイデアがすでに実現されつつある。またテキスト以外の情報としては放送業界で利用されている膨大なコンテンツなどが考えられ、そこからユーザが欲しい情報を効率よく検索するために、画像や音声、動画の中身を解析するための技術が用いられている。またそのコンテンツを観た人にラベルを付けてもらうことで、テキストとしての情報として扱うことなども考えられている。こうしたシステムが実現してユーザが自由に自分にとって楽しい情報にアクセスすることができるようになれば既存の放送局の一方的に情報を流すモデルは陳腐化してしまうだろう。テキスト検索においては日本はアメリカに大きく出遅れてしまったが、今後より多くの利用が見込まれる映像、音声、動画に関する解析処理技術では日本は強みを持っており、まだまだこれから挽回の余地があるだろう。

さて、Googleやアマゾンなどのプラットフォームシステムは、地主とも言える存在で、その上でビジネスを行う限り、おいしいところはその多くが持っていかれてしまう。そこでそうしたモデルから抜けるための示唆として、音楽配信サイト「mF247」を立ち上げた丸山氏について紹介する。丸山氏は、既存の音楽スタジオのシステムと正反対の、スタジオと契約するためにミュージシャンの方が審査料を払って登録した音楽を、ネットで無料で流す、という「mF247」というサイトを立ち上げた。 もちろんこれでは利益は出ないのであるが、丸山氏は、無料で流した音楽に感動した客にライブなどに来てもらって、そこでお金を落としてもらおう、という構想を持っている。最近の音楽視聴スタイルは、電車の中など何かのついでに聞くことが多くなっていて、音楽それ自体を全力で楽しむという傾向は弱まっているが、丸山氏は、全力で音楽を楽しむためにはライブに来るしかなくなるようになるのではないか、と考え、そうしたお客さんを集めることに、今までは収益の中心だった音楽配信を利用したのだろう。ネットにおけるプラットフォームから離れて独自の収益モデルを図るには、ネットの仮想世界から現実世界に、自らの土俵を作ってお客さんを誘導することが、一つの解になるのかもしれない。

企業が宣伝を行う際のメディアとして、以前からブログが注目されている。しかし、ブログ広告の難しいところとしては、企業側がブロガーにお金を払って自社製品を持ち上げてもらおうとする、などコントロールしようとするとネットの人から逆に大きな非難を浴びることになる。そのためきちんと情報の可視性、ブロガーの独立性などを担保するための仕組みが必要となる。ブロガーの立場からすると、アフェリエイトによる収益よりも、読者から得られるリスペクト、自らが持つ影響力の実感、の方が重視されるようになり、Googleの検索ロジックの変更によってアフェリエイト的なブログの優先順位の抑制、中身に応じた優先付けなどもあって、いっそう中身を重視したコンテンツ作りが広がっていきつつある。したがってブログ広告を提供する企業も、ユーザに自社の製品について、どう書いてもらうかは全く干渉せず、まず書いてもらう機会を多く提供することから始めることが大切になるだろう。ブロガーの独立性の担保、ブロガーが相応のリスペクトを得られる仕組み、リスペクトを得られる人がそれに応じた収益を得られる仕組み、を作ることができれば、プラットフォームホルダーに支配されない新しいエコノミーモデルを提示することも可能であろう。

Posted on 2007/04/15 Sun. 23:03 [edit]

category: 読んだ本

thread: ブックレビュー  -  janre: 本・雑誌

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