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読んだ本の要約、感想など。 他にも日々思ったことをつれづれと書き連ねます。

「Jリーグ」のマネジメント 

「Jリーグ」のマネジメント―「百年構想」の「制度設計」はいかにして創造されたか「Jリーグ」のマネジメント―「百年構想」の「制度設計」はいかにして創造されたか
広瀬 一郎

東洋経済新報社 2004-09
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☆☆☆★
Jリーグの成り立ちについての解説。W杯などを観ていてどのようにサッカーのリーグ運営が行われているのか、それに比べて日本サッカーがどのように成り立ったのかに興味を持って読んでみました。

要約
一時に比べて人気が落ちて久しいといわれているJリーグが実は他国のプロサッカーリーグからリーグ運営の成功例として研究されていることが述べられている。 W杯で日本が強くなるために環境としてプロリーグが必要ではないかというところからJリーグが発足した。 プロ化にあたっては当初各サッカーチームを所有する企業側での理解が得られずに苦労したが、プロ化する際に企業側の応募数がリーグの設定チーム数を上回り、それがその後のJリーグ運営側が主導権を握るきっかけとなる。他国のプロサッカーリーグが既存のチームの寄り合い形式で生まれたため、各チームの利害が優先される仕組みになっているのに対し、Jリーグはチーム参加数を絞り込む立場にいたため、各チームに対して収益配分や参加条件厳守の誓約など、強い力を持った組織として発足している。また他のスポーツに比べて、サッカーでは圧倒的な人気を誇るW杯を頂点とするヒエラルキーが存在し、各国に1つしか国の代表団体が存在し得ないこともJリーグの発言権の強さにつながっている。こうしたトップダウンの体制がリーグ全体を盛り上げる姿勢につながりJリーグの成功をもたらしたと考えられている。

参加チームに課される条件には、地域浸透を目指しチーム名に企業名を入れない、集客活動は各チームの自主性に任せながらも得られる利益は各チームで配分することなどがあり、読売のナベツネを激怒させたほどプロ野球に比べて厳しいものであったらしい。また条件には地方自治体との協力を義務付けるものがあり、これはスタジアムの整備などのコストが一企業には負担が大きすぎることもあるが、根本には地方と共同してサッカーの普及を図ることが主目的とされている。地方側は広報や教育においてサッカーの普及を助けることになる。

W杯やオリンピックにおける国際的な運営委員会の歴史についても紹介があり、かつて儲けが少なかったオリンピックやW杯において、開催国にその都度運営委員会を設けていたのをグローバルで一つの委員会が独占することで、さまざまな利権の強化を図った。今までは利用に際して管理がなされていなかった公式マークをスポンサーのみ利用可能にすることによるスポンサーシップの価値向上。放映権を1国1放映局にのみ独占的に販売することによる値段の吊り上げ、またスポンサーシップ契約を4年間でひとまとめにすることによる値段の吊り上げなどが行われた。著者はこうした工夫が癒着などの負の側面を持つものの、普及のために貢献した面も見逃せないとする立場を取っている。

各々のチームの経営的な成功について、チームの収益は、チケット収益、広告収益、放映権収益の3つが大きな柱であり、これらの収益をバランスよく育てることが大事であるとしている。一方、チームの支出で一番大きいのは選手の年棒や移籍金であり、一時期のサッカー放映権バブルにより選手の年棒や移籍金もそれにつられて高騰し、チームの支出が増えた。Jリーグ発足時にはたくさん来日していた海外の有名選手が急に日本に来なくなったのは欧州の年棒が急騰したのが原因であるらしい。しかしチームが強くなれば収益が即向上するというわけでもなく、また良い選手を入れればチームが強くなるとも限らず、選手への投資は非常にリスクの大きいものであり、このバブルにより選手に大きな投資をして収益が悪化して数多くのチームが撤退し、勝ち組、負け組みの差が開いた。大きな収益を上げているチームは選手への支出をなるべく押さえ、チームの成績になるべく依存しない収益モデルを構築するように工夫している。勝ち組に分類されるチームは放映権の高騰で得た収益を選手の年棒というフローではなく、スタジアムに高付加価値な観戦を提供するための増築などのストックに投資することで、観戦に来てくれるお客さんに対して満足度を高めてチケット収入を増しつつ、チームのブランド価値を高めることに注力していることが述べられている。

感想
本書はJリーグにおける運営方法について網羅的に述べられていて資料として大変価値のあるものであると思う。特に巻末に載せてある集客数や各チームの収入などの1次データは貴重であろう。ただ本書の構成については本文中にインタビュー内容を載せるなど、現場の臨場感を伝えようとしてのことであると思うが、自分としては読みにくかった。 また著者はJリーグの成功の秘訣を、マネジメントと顧客満足としているが、 マーケティングに関する著述は、読む限りでは理由の後付けに見えてしまったため、要約では書かなかった。内容的には☆4つでもいいと思ったがこれらの理由で3つにした。

スポーツにおいては一般の自由競争と違って、一つのチームだけが勝ち続けるのではなく、リーグ全体として盛り上げ、かつリーグ全体としてのコンテンツをいかに利益に活かすかということが大切であることがわかる。そのためにはW杯、オリンピックなど、過去の例から強力なトップダウンの仕組みが有効に働いていたこともわかった。
またテレビ放映が少なくなり衰退していると思っていたJリーグが、巻末の資料により、観客人数や収益などが堅調に推移していることがわかって新鮮だった。本書ではスポーツにおけるマネジメントについて焦点を当てていたが、Jリーグの理念であったサッカーの普及および国としてのサッカー戦力の向上についての成果についても知りたいと思った。
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Posted on 2006/10/21 Sat. 00:46 [edit]

category: 読んだ本

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