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現在まで様々な人工知能のアルゴリズムが開発されてきたものの、それらは基本的には人間の知能を模すというより、それを参考にはするもののそれとは別にアイデアをひねり出すという工学的なアプローチが主流であることを述べ、人間の知能はその原理を完全に模すことでしか実現できないとしています。例えばニューラルネットなどは部分的に脳の仕組みをまねたものであるが、その仕組みは全く別物であることを引き合いに出しています。 しかし反面、人間の知能は動作の表面上がいかに人間に似ているかを試すチューリングテストで測られるものではなく、あくまで人間の感情や意思などを取り除いた知的処理について焦点を合わせるべきであるとして、著者は人間の知能として大脳新皮質に着目し、その本質として、時間的なシーケンスを学習すること、ニューロンが6層の階層構造からなっており、上位から下位への逆向きの情報の流れが存在すること、を挙げています。
大脳新皮質では下位のニューロンは感覚器から入力された一次的な情報を受け取り、上位に行くにつれ、より抽象的な情報を扱える仕組みになっているそうです。その際に、同じものを見ていてもそれが動いていると感覚器に入力される視覚情報は目まぐるしく変わるがそれを人は同じものとして認識できる。ではなぜ目まぐるしく変わる下位の情報を元に、上位のニューロンは安定した状態を保てるのか、という問いに著者は上位のニューロンの発火パターンの情報を元に下位の発火パターンに影響を与えるからであるとしています。つまり人の知能の本質の一つとして予測することを挙げていて、上位のニューロンでの予測を下位のニューロンにフィードバックすることでより安定した状態を保てるのだとしています。 また、今までの人工知能は静的なものを対象にしてきたものであるが、実際の人の脳は動きのなかで情報を処理するものであり、動くことのよってより多面的に物事を把握できるメリットのほかに、時系列の処理であると上位のニューロの予測を元にフィードバックをかけることができ、複雑な情報処理も可能になることを説明しています。
また本書ではこうした大脳新皮質を模した知能には人間の感覚器とは独立した、そのタスクに即した感覚器をつけてやることによってより高性能な処理を実現しうるとし、またその知能はコピーが可能であるため、知識を共有するのに便利であるとしています。またよくSF映画で出てくるような、ロボットが人間に反旗を翻すようなことは、ここでいう知能が人間の知的処理の側面のみに注目しているため起こりえないことなども説明しています。
本書は人の知能の実現について、直感的ではあるものの納得できる考えで、とても示唆に富む内容でした。もともと自分は人の脳の仕組みに興味を持ってニューラルネットの研究に携わったものの、実際のニューラルネットをはじめとする機械学習は統計的学習とも言い換えることができ、最初に人工知能に対して持っていたイメージと大分違うものであることに気が付き、人の脳は複雑系であるため実現するのは不可能であるとさえ思うようになっていました。しかしこの本には大脳新皮質の仕組みについて触れていて、それが比較的シンプルに、階層構造の上位から下位へのフィードバックとシーケンスを利用することで動作していることがわかり、人間の知能の実現に再び興味を持たせてくれるものでした。
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