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組織戦略の考え方
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昨今では官僚型組織は諸悪の根源であるかのように言われているが、企業などの組織においては官僚型組織、階層的な組織というものは、日常の業務をスムーズに行うためには必要不可欠であるとしています。下の階層は日常の業務をこなし、例外的な処理を上の係りが担当し、トップは大局的で長期的な判断を行うために日常の仕事で忙殺されてはいけないことを述べています。
次に、組織構成において最も注意をしなくてはならないことはボトルネックを作らないことであるとしています。ボトルネックが存在すると常にアウトプットはその部分に制約されてしまうため、ボトルネックを解決するように各部署での仕事に変化を持たせるべきであるとしています。それは生産工程にのみの話ではなく、意思決定などの場合でも、なにかの決定を出すための人間が他の付加価値のない作業に追われて本来の仕事に専念できずに無駄が生じることの危険性などを説いています。
次に組織デザインについて、一般に組織を「職務別組織」、「事業部制組織」、「マトリックス型組織」の3つに分類しています。職務別式は規模の経済が追求しやすいが細かい戦略を立てるのが困難になるなどの柔軟性に欠ける。事業部制は一つの戦略に従いやすい仕組みであるがその分統合によるシナジーが薄れることを述べています。両者のいい所取りのマトリックスについては、各事業部長と職務長の兼任の話し合いによって連合を図るものであるが、その際の問題は組織の問題ではなく、人の問題に属するもので、組織のデザインに頼りすぎて人事の重要な決断を鈍らせる言い訳になっているとしています。
多くの企業ではポストや報酬が限られている中で多くの社員に満足を与えるためにマズローの理論を都合よく解釈して自己実現という言葉で誤魔化しているとしていて、報酬やポストで報いられなくてもその他の承認欲を満たしたり新しい心理的な報酬につながるようなものを考案するべきであるとしています。
組織が疲弊する原因として、社員の中に公共財産にただ乗りする割合が増えることの問題点を述べています。これを押さえるには不利益を被れる責任感をもった人物が必要であるとしています。そこで これを解決するにはみんなが責任ある地位につける気にさせることのできたいままでの日本的経営から、一部のエリートに将来の明るい展望を確信させることで強く責任感を持たせることと、ノンエリートとの間をカバーする中間管理職のモチベーションを高める心理的な報酬を考えることが大切であるとしています。
日本ではこのようにみんなのコンセンサスを取ることが重要視されていたので誰かの嫌がることをおこなう決断ができる人がトップも含めて少ないことが問題であるとしています。
組織の構成における権力の位置付けとして情報の重要性を指摘し、トラの威を借りるキツネを引き合いに出しています。複数の異なる志向を持つ部署の間を取り持つ時に、その間の仲介となる人には情報をお互いが離れるように操作して自分に力が集まるような権力が生じうる危険性を述べています。こうしたことは争いを避ける姿勢から生じるものなのでもっとまともな議論ができる土壌が必要であるとしています。
組織が腐敗する時というのは主に会社のルールが昔のルールを壊せないためにそれを少しずつ付け足していく形になり複雑化が進むことと、成熟事業部において優秀な人が余ってしまい、彼らがその余った力で社内政治に精を出すこと、が表面化するといいます。こうした腐敗が進んだ組織を直すにはトップダウンの強力なリーダーシップで複雑化した社内ルールをシンプルにして、人材配置で優秀な人を部署に分散させ、社内政治に精を出さずに外向きに力を発揮できるように仕事を割り振ることが大切であるとしています。
この本では理論的な組織デザインよりも、人の行動心理を考えていかにして内向きに力を向けないようにするかが大切であるとしています。また組織が腐敗するのは当然であると考え、腐敗が進むたびにトップが強権を発動して改革をなす必要があるというのも常識的で、そういう意味では本書は常識的なことがいかに大切であるかを強調するものであると思います。人というのは優秀であるほど、それが組織の目的に沿っているかはともかく、要領よく仕事を作りたがると言うのは普遍なのかもしれません。そのためにトップがいて、変わり行く組織の人材配置において内向きに頑張る人が少なくならないようにすることが大切なのでしょう。また本書では優秀な人というのは組織のごく一部しかいないもので、そういう人たちを他と区別して考えていたのが印象的でした。この20対80の法則というのも普遍的なのかもしれません。
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