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読んだ本の要約、感想など。 他にも日々思ったことをつれづれと書き連ねます。
パックマンのゲーム学入門
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ブログパーツを公開してみてゲーム作りに興味を持ったことと、クリエイターがどのようにコンテンツを作っているのか、その発想の形に興味を持ったので読んでみました。
全体的に読んでみてゲーム作りの発想は、閃きも大切だけど難易度の設定やルール作りなど、地道に試したり理屈で考える部分が多かったのが印象的。対談ではいろいろな意見があるものの、直接ゲーム作りに関った岩谷氏や宮本氏や小口氏では、ゲーム性回帰の必要性、経験が発想の原点になる、納得性の高い難易度、など、考え方に重なる部分が多くあって面白かったです。
クリエイターとしての体験談としては、自分が作ったアーケードゲームを素通りされた時の悔しい経験や、自分の作ったものを人にやってもらって楽しんでもらうことをモチベーションにするくだりなどは、ほとんど経験の無い自分ではあるもののブログパーツ公開で感じたことと重なってとても共感でき、将来はゲームとは関り無い業界で働くことになる自分にとっても、ユーザの視点に立って考えることなど人に使ってもらって便利さを感じてもらうことに関る仕事ではこのモチベーションの感性を持つことの有意義さを確認できました。
「要約」
1章では著者の携わってきたゲーム開発に関してのエピソードを、2章ではクリエイターとしての実際のゲーム作りに対する考え方や着眼点などについてのアドバイスを、3章ではプロデューサーとしてのプロジェクトに関する留意点などを著者自信の経験を交えて述べている。4章以降はゲーム関係の著名人との対談となっている。
1章、著者がピンボールに夢中になったことや、遊びに関る仕事をしたくてナムコに入社した経緯などが述べられいている。著者が初めて手がけた「ジービー」はインベーダゲームの影に隠れてしまったものの、派手さを強調した「ボムビー」をリリース、その後、派手さだけでいいのかという自問から生まれた、女性にも受け入れられ易い、幾何学的デザインからキャラクターデザインに切り替えた「キューティQ」をリリースしてスマッシュヒットを飾る。そしてピザの形から食べることをモチーフにしたパックマンの着想にいたる。次に追いかけっこの要素に取り組むが敵キャラを後追い、先越し、対称、ランダムの4種類の行動パターンを持たせることで戦略性とキャラクター性の向上に成功。パワー餌によって逆に追いかける楽しさも持たせることでゲーム性の幅を広げる。女の子にも受けるために緊張感の緩和とキャラクター性の向上のためにステージの合間にデモアニメーションも用意した。また開発の最終段階でスピードを2倍にしたところスリル感が増すことに気がつき、ちょっとした調整がゲーム性を大きく変えることにつながると述べている。これらのアイデアが実を結んで、パックマンは日本や特にアメリカで大ヒットを記録した。
パックマン以後、日本でも「グラディウス」や「平安京エイリアン」、「ドンキーコング」など、オリジナルのゲーム性を追求したものが数多く出現した。当時のナムコは規模もまだ小さく、ゲーム業界自体も黎明期であったことからクリエイタが自由に自分の作りたいものを開発する雰囲気があり新しいゲームが次々にリリースされた。著者はナムコらしさを、どこか人の温かみのある新しいチャレンジ、としている。パックマンの次に取り組んだ「リブルラブル」はディスコで囲むことに着目したことが着想の元になった。このゲームは当初ゲーム中に宣伝を行うことでスポンサーを作る予定であったという。他にもタッチペンを使った絵本のゲームや、遊びたいゲームをケーブルテレビ回線からダウンロードするオンラインについても構想を広げていたそうである。 その頃から著者はプロデューサ業に移り始める。スキーの体感ゲームを開発した話では、実際のスキーと異なって足を並べたインターフェースになっていて、実際の動作とゲームとしての動作は必ずしも同じである必要は無く、こうした体感をゼロから自らの手でデザインできることも開発者の醍醐味であるとしている。
2章はこの本の基幹となる具体的なゲーム作りに関する部分である。 ゲームを作り手は、自分が楽しめるゲームを作るだけではなく、多くの人に楽しんでもらえるものを作る必要があり、そのためには自分の中にこの人に楽しんでもらえればみんな楽しんでもらえるだろう、という人物イメージを持つことを勧めている。著者の場合は気難しい職人さんのイメージだそうだ。 また面白いゲーム作りには発想が大切なのだが、そうした面白いアイデアは無から生まれるのではなく、これまで見たり経験してきた頭の引き出しにある"面白い"のアイデアを組み合わせて作るものであり、そうしたアイデアの引き出しをたくさん作るためには日頃の観察が大切であり、日常の中でちょっとした変わった事を探してみて、それがなぜそうなったか考えることがアイデアを創り出す元になることをエレベータが止まったときには階段そして使えることなどを例に出して説明している。 ゲームを遊んでもらうための必要条件として、注目してしまう、目的がわかりやすい、自分にもできると思わせる、注目を集める、などを挙げている。 他には既存のゲームを進化させた類のものがあり、最近はこちらのものばかり増えてしまっていることに警笛をならしている。 次にゲームをやってもらって楽しんでもらうための条件として、結末にいたるまでが変化に富んでいること。作戦性があること。イニシアティブを持っているように感じられること。ミス設定に納得がいくこと(上達を促す)。操作がスムーズであること。を挙げている。 難易度の設定が大切であり、初心者から徐々に難しくなっていくカーブの設定が緩すぎず、きつ過ぎず、バランスよく設定することが大切である。しかしいろいろな人がゲームをやるため、その人にあった個別の難易度設定を自動的にすることについても述べている。 著者のこれまでのゲーム作りにおいて、動詞(動作)から考えることがアイデアにつながってきたとしていて、"なめる"ことを例にゲームアイデアのイメージを膨らませていくことを説明している。 ゲーム作りにおいては発想を転換することも大切であり、一人で遊ぶことが主だった時代のアーケードゲームで、他人と対戦できるレースゲームで成功した後に、周りの反対を乗り越えて純粋な走りを追求した「リッジレーサ」を成功させたいきさつが述べられている。 さらに遊びの要素として思想家カイヨワが提唱した、決まったルール下で目的を達成するもの。運を楽しむもの。架空を楽しむもの。知覚の安定を崩すことを楽しむもの。を挙げて、それに、成り行きのつながり自体を楽しむこと、を付け加えることを提唱している。
3章からはプロデューサの立場からのゲーム開発についての部分となっている。まず企画の立て方について、初期の段階では議論の基準となる叩き台を常に企画者が持ち出す必要性を説き、あくまで叩き台であるため他の人の意見を取り入れて自分の意見を捨てる柔軟性が必要であるとしている。また企画は人を巻き込みながら作るものであり、早い段階から意思決定権を持つ開発者などと密にコミュニケーションを取り合ったりすることや、上司などに売り込むサービス精神も大切であるとしている。企画とは総合的な能力が必要とされる複雑な仕事であるが、上手い企画を立てるためにはまずは発想力、ユーザから求められているものを具現化するための情報収集&分析力。メンバーを仕事に巻き込むためのリーダーシップ。臨機応変に企画をまとめていく柔軟性を挙げている。企画が無事離陸したら次の実行段階としてプロデューサとディレクターが仕事を担う。ディレクターはゲーム開発を統括する立場であり、プロデューサはビジネス面などでの統括を担当する。ディレクター業務ではゲームというイメージ先行のあやふやなものを作るため、ディレクターが持つイメージを共有するためにも自信と部下、あるいは部下同士のコミュニケーションをうまく取らせることが大切となる。プロデューサの方はディレクターと被る部分は大きいものの、スムーズに良いゲームが作れる環境を整えることが大事で、そのために必要な能力としては、先天的要素が強いとしている問題に気付く力や、人を上手くまとめる折衝交渉力を挙げている。ゲーム開発の終盤で出てくるネーミングについてや、発売されて世に出た後の著作権などの権利についてや、ゲームが社会に及ぼす影響などについて、問題意識を持つことがゲームクリエイターにも必要であるとしている。
第4章からは著者と著名人との対談。最初は任天堂の宮本茂との対談でゲーム制作についての細かい話など。ゲームの良さを決める大きな要因である難易度について、著者が2章で述べていたように失敗したことが納得できるよう難易度を設計して、失敗してもプレイヤーの自発性をくすぐってもう一回やりたいと思わせるような、内容の伴った難易度の高さを考える必要について話し合ったり、ゲームのルール自体をプレイヤが自然に受け入れられるように設計することなどについて話している。最近の複雑化するゲームについても話が及び、宮本はクリエイターとして表現だけに頼ることは逃げにつながると、ゲーム性を重視する立場を示しつつ、ゲームにも世代間などのギャップがあって、ファミコン時代などを経てこなかった現在の一般の人にもゲームを遊んでもらうためには、「どうぶつの森」などのように難易度で興味を引っ張ってくる以外の方法も模索する必要性にも言及している。「ゼルダ」の難易度設定についても話が及び、宮本は難易度設定には非常に気を遣っていることを述べる。しかし難易度に頼っている時はゲームの面白さが足りない時であることが多いともしている。ゲーム作りの体制について、近年のゲーム制作は規模が大きくなり、責任などが曖昧になって面白さを追求しきれていなかったり、分業制になって、本来のゲーム性にかかわる移動速度などのあらゆるパラーメータを一人でみることが少なくなったことなどを問題として挙げている。またゲーム作りにおけるアイデア出しについて、宮本は考えが煮詰まった時は当事者以外の立場になったと考えることで客観的視点に立って問題を見ることなどを話している。最後に宮本は自身のゲームの方向性としてプレイヤが自発的に取り組みたくなるようなインタラクティブな面白さを追求したいとしている。
次はセガ社長の小口久雄との対談。小口も慣れるまでの時間が長い最近のゲームの複雑化に対してゲーム性を追求した原点回帰を図るべきだとしている。また良いゲームを作るためには気遣いが大切であり、自分が楽しく遊べるものを作ろうとしたのではなく、それで遊んでいる友人が楽しんでいる顔がみたくて作っていた体験を話し、面接などでも人に気遣いがどれほどできるかを見ていることを述べており、また小口も著者と同じく人間の面白いものを考える力は経験から来ているのではないかとしている。またゲームの続編について、新しいコンセプトを売りにしたものは本来それで完結しているので売れたからといって新しく続編を出そうとするとなにか付け足さないといけないという強迫観念から本来の面白さがぼやけてしまう事が多いのではないかと話している。また小口はゲームを作る時は企画時に完成されたイメージを持っていて、良いアイデアは大体"ひらめく"ものであるとしている。そういうひらめきのあるアイデアは往々にして周りには受け入れられなかったが、そういうアイデアには絶対の自信を持つことができたため通してきたし、他の良いクリエイターも提案には絶対の自信を持っていたことが多かったことを述べている。
糸井重人との対談が個人的につまらなかったこともあり以下は省略。
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幸運を呼ぼう! | 2007/02/08 23:34
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