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読んだ本の要約、感想など。 他にも日々思ったことをつれづれと書き連ねます。

投資銀行 

投資銀行―日本に大変化が起こる投資銀行―日本に大変化が起こる
岩崎 日出俊

PHP研究所 2006-05
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☆☆☆☆
感想
最近M&Aやボーナス一千万支給など、最近ニュースなどでよく聞く投資銀行ですが、具体的にどんな仕事をしているのか興味を持って読んでみました。
今までは投資銀行というとハゲタカファンドなどを連想してなんとなく自分の利益だけを追求する虚業というイメージを持っていたのですが、この本によると投資銀行は世界中のネットワークを利用して、依頼主である企業の価値を向上させるために買収するべき対象を探し出したり、売るべき事業の選定や売買の交渉など、様々な面からサポートする心強い存在であるようで、その仕事内容がかなりわかりやすく説明されています。
投資銀行の業務は主にM&Aという領域に限定されているものの、経営上一般的な問題解決を図る経営コンサルタント業務にかなり近い印象を受けました。逆にこの本を読む限りそうした高い質のサービスの提供では日本の銀行はかなり遅れているように思われます。 M&Aは短期間で事業の拡大を図るための有効な手段として世界的に広がっていますが、日本もその流れに乗りつつありさらにこの流れは加速化していくように思われ、この本で述べられているような、企業価値を明確化してそれをとことん追求する考え方はますます必要になってくると思われます。
もっとも、こうした考え方は現時点での最適な事業組み合わせを提供してくれるかもしれませんが、新しい事業を開拓するのはあくまで企業側の仕事であり、そうした考え方の間でのバランスを取ることも重要なのかなあと思ったりしました。もっとも、日本だと後者の考えにしがみついて本来見切りをつけるべき現状の事業を切り捨てられずにジリ貧になるケースの方が多そうですが…。

要約
日本のバブルのピークから現在までで、アメリカと日本の株価は10倍の差がついてしまっているが、これは日本の経営者が企業価値を最大化するという観点が欠如しているからである。 企業価値は最終的には株価という形で表され、経営陣はこの株価を最大化するための意思決定を下していかなければならない。こうした基準の存在によって、株市場における値動きや直接株主が物言うことによって経営陣にチェックが入り健全化が図られる。

投資銀行は顧客企業の価値の向上を図ることを任務とする。そのための項目として、収益力の評価、成長性の評価、競争力の評価、企業のうちどの部分が価値に貢献しているかを見るバリュエーション分析、どうすれば株価が上がるかという機関投資家の視点、を考慮して、事業の売却やアライアンス、企業の買収や出資、資本戦略、などの手段を用いて企業価値の向上を目指す。分析だけでなく、実際に事業の売買となった時も投資銀行はその仕事のアシストする。特に投資銀行は日本の銀行に対して、グローバルに展開している人たちの情報連携によって、事業を売買する適切な取引相手を早く見つけることが可能であるという強みがある。売却するためのオークションの設定などのノウハウも豊富であり、売買における値段のやりとりも論理的に交渉を行われる。 こうした仕事の際の投資銀行の報酬は取引額の2~3%という形になっていることが多い。したがって、大手の投資銀行は400億以下の取引になる仕事は請けないことが多い。そのため日本の銀行の請負件数は外資に勝るものの絶対額では外資の方が大きく勝っている。

こうした事業の売買を扱っている投資銀行だが、顧客との長期的な関係を考えて、敵対的買収には慎重であるという。敵対的企業買収の形態としては、該当企業の株を買い占めてその企業に高く買い戻させようとする「グリーンメイラー」、買い取った企業に優秀な経営陣を送り込んで株価を向上させて売る「ファイナンシャルバイヤー」、企業の戦略的な展開のための「ストラテジックバイヤー」の3つが挙げられる。敵対的買収においては、大量に資産を有するものの利益を生まない企業は利益で決まるため低い株価に対して資産売却による利益や改善の余地が大きいため狙われ易い。また子会社を上場している企業も資本のネジれによって狙われることが多い。

日本の銀行の悪いところであるが、外資系投資銀行が顧客の価値向上を第一目標としているのに対して、日本の銀行はあくまで自分の得られる利益を優先する傾向がある。また企業価値の基準を持っていないため、株価が下がってしまうような売買案件を提案することもしばしばある。グローバルな展開を行っていないために企業や業界に対する情報力もかなり弱いしグローバルな視点も欠けている。日本の銀行は政府によって、公的資金の投入や、公的利率の低さによって甘やかされており、現在の日本の銀行の好況も、利率の低さ、すなわち国民の犠牲によって賄われた超低コストな資金を、資本参加している消費者金融においてとても高利に国民に貸し付けることによって成されているのである。

投資銀行でのワークスタイルであるが、一般に投資銀行は高給で最近は学生の人気も高いが、仕事内容はそれなりにハードである。人件費は変動費として考えられており、業績が良い時は給料もそれに反映されるが、悪い時などは速やかに人員整理を行ったりする。また一流の投資銀行ほど、成果と年収との関連が緩やかである。それは一流の投資銀行ほど仕事をサポートする人的組織的ネットワークが整っており、お互いが情報交換によってフォローすることで成果を組織全体のものとして考え、仕事の性格上、不安定になりがちな成果もヘッジでき、また顧客に対してもより長期的な観点から付き合えるようになるというメリットが見込まれるからである。 投資銀行は3つの部門に分かれており、M&Aのアドバイスを行う投資銀行部門、それぞれトレーディングや販売を行う、株式部門、債権部門、がある。その中で投資銀行が欲しい人材としては、ハードな仕事でも続けられるやる気を持っていること、そのやる気も基となる動機がしっかりとしていること、仕事のセルフマネジメントがしっかりでき、人との協力がスムーズに行えること、なにかしらのトラックレコードを持っていることなどが挙げられる。投資銀行ではヘッドハンターによる引き抜き合戦が頻繁におこなれているが組織としては、そういった引き抜きに対しては接触を持たせない、引き抜かれた場合は一切情報を持ち出させない、といった配慮をしている。

これからは日本も本格的なM&Aの時代に突入することになるだろう。2006年の春からはKKRというアメリカの投資銀行の代表格が上陸することになる。このKKRという投資銀行は初めて、手持ちの資金が無くても買収先の収入を担保に資金を借りるLBOを実用に移した銀行で、今までに買収した企業の駄目だった経営陣を更迭し、優秀な経営者を送り込んで高収益企業にしてきている。ナビスコを買収して後にIBMを立て直したガースナーを経営者として送って立て直したのがその代表的な例である。買収された企業の経営陣は大概無能であると更迭されるため、こうした投資銀行が日本に上陸することで日本の経営者もよりいっそう企業価値の向上に真剣に取りくまなければならなくなり日本経済の活性化に繋がるであろう。

*省略したが他にも仮想の買収劇シミュレーションの記述などもある。

Posted on 2007/01/14 Sun. 05:11 [edit]

category: 読んだ本

thread: ブックレビュー  -  janre: 本・雑誌

tag: 感想  要約 
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コメント

 

こんにちは^^

この本は読んだこと無いのですが、大体似たようなこと書いた記事とかは
みたこと多いので、なんとなくですが、

企業価値を高めることを重視する姿勢が日本には足りないように思うのは確かですが、
一方でそれだけではないんだなぁというのもあります。

企業価値=株価ということで、銀行(投資家)は収益をあげるようにするのですが
こちらの方に傾向しすぎると、労働者への分配が下がったり(日本は高いですが)とかなって
働くよりも投資のほうが儲かる図式ができあがるという、経済の足元が狂いつつあります。
実際アメリカではワーキングプアが問題になってますし、今の企業だけ?が儲かって
労働者に実感のない日本の景気がそうですよね。
極論ですが労働者がいないと、PCもなければ、食べ物とかも食べられないわけですし・・・
あと企業価値を株に求めすぎると企業の社会的貢献の面が疎かになります。

株とか企業価値も大事だけど、こういうことも大事なんで一長一短あって難しいですね。

とりとめとなく長文(しかも何がいいたいかまとまってないですし)失礼しました。

URL | HAL #ZUdxtCw. | 2007/01/14 11:03 | edit

 

はじめまして(嘘

学部時代の同期が、某投資銀行GSに就職して高収入コースに乗ってるんですが、
ありえないほどバイタリティのあるその同期が、就職後に過労で入院したという話を聞きました。
仕事内容は、「それなりにハード」どころか「むちゃくちゃハード」なのが実態なのかもしれないですね。

あと、投資銀行といえば、某バラバラ殺人事件という残念な形でも脚光を浴びてしまっていますね・・・。
当事者も、年収数千万ながら仕事内容は非常にハードだったそうで・・・。

URL | かーねる #TRcOFq4w | 2007/01/14 14:05 | edit

 

>HALさん
コメントありがとうございます。誰も興味を持ってくれないだろうなあと思いつつ自己満足で書いていた読んだ本に関する記事ですが、初めて感想に対してコメントを頂いてうれしいです。

株価による企業価値向上の飽くなき追求にも確かにいろいろと問題はありそうですね。
株による企業価値の追求に関するメリットは、絶対的、客観的な指標であるために成果評価を厳格に行うことができるためそれに向けた努力が促され易い、ということと、その指標が株主という外部の第三者の利益と結びついているために常に経営にチェックが働く、ということだと思うのですが、逆にその弊害としては、短期的な収益のみを追求してしまうことと、HALさんがおっしゃっているように、企業価値に社会に対する貢献という尺度が入っていない、ということが考えられそうですね。

今の所、好景気が続くアメリカでこの企業価値の指標が有効に働いているのは、今の世界経済がグローバル化に傾いているため、規模の経済によるコストの低下や事業の世界的展開の速さが重要になり、それを実現するためには企業買収が効率よく、売買の資金調達の手段としてこうした指標の向上がうまく機能しているのかもしれません。ただし成熟した産業においては、単に売買などによる事業の組み合わせの操作等、分析的な考え方だけでは新しい産業を生み出すには至らず、経営陣のイノベーションはもとより、開発等、現場の方達の創意工夫の積み重ねが不可欠になるはずです。こうした努力は短期的には株価には現れないので、そういった所謂地道な活動が軽んじられる傾向が強まるおそれもあります。自分も来年からは開発に携わるためどうしても技術者の観点に立ってしまうのですが、ただでさえ技術者の冷遇などによって理系離れが進む昨今の日本、利益が上がらない体質のまま現場の人だけが蔑ろにされてしまってオペレーショナルな操作だけを頼って下手に短期的に上手くいってしまうと、日本の基盤となっていたはずの技術力は低下の一途を辿ってしまうでしょう。
ただし、現場の方達の努力が成果に繋がって報いられるようにするためにもまずは技術を利益に結び付けられる体質に変えないといけないとなるわけでこ、やっぱり両者のバランスが大切になるのかもしれません。日本経済が絶好調だったちょっと前までは欧米企業も日本の家庭的な企業文化を学べ、といっていましたし、企業価値の指標も短期的にはどちらかに傾くことはあっても、長期的にはバランスの良い形に収束していくのではないかとちょっと楽観的ですが期待しています。もっともその道のりは決して平坦ではないかもしれませんが…

URL | YOTTI #- | 2007/01/14 17:30 | edit

 

>かーねるさん
はじめまして(笑
やっぱり高給に見合うくらいバリバリ働いてるんですねえ。
前読んだプロフェッショナル原論の人もそうだったけど、本人は自分の仕事をハードワークと一言でさらりと片付けているけど、普通の人から見るととんでもない激務で、うっかり著者のノリで読んでるとついついそこらへんの現実を忘れてしまいます。
自分も就活で一時期そうした業界を受けたこともあったけど、今では自分なんぞは普通の技術者に落ち着いて良かったなあとつくづく思います(汗 でもいい経験になりました)。とはいえ、社会人になったらなったで技術者の意地は見せますよ!

URL | YOTTI #- | 2007/01/14 17:56 | edit

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