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巨象も踊る
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IBMという巨大企業を立て直した経営者とはどのような人だったのだろうかと興味を持って読んでみたのですが、一番印象深かったのは彼が非常に競争精神旺盛な人物であることでしょうか。「我々が失った利益は全て競合が持っていってしまっている、それがいやなら彼らから奪うしかない」、といったような内容のメールを社員に流すエピソードもあったり、それが生半可なものではないことが伺えます。彼がIBMを立て直すために取った施策としては様々な戦略が挙げられますが、それを実行するための強力な意思が無ければ復活は為し得なかったと思います。競争精神でなくとも、常に徹底した実行の意思を持ち続けるための何かしらの気性を持つことは卓越した成果を挙げるための必要事項なのではないかと思います。
また彼が当初はコンピュータ関連の知識を持っていなかったにも関らず多大な成果を挙げ、今後のIT業界の見通しなどでも深い洞察が示されていたのは、業績を上げるための知見は必ずしも深い技術の知識だけによるものではなく、顧客や競合など、幅広い知見から得られるものであることを示しているのではないかと思いました。
「要約」
まずIBMのCEOになったいきさつについて。 ビジネススクールを卒業した後、マッキンゼーに勤め、経験を積む内に実際に行動を起こす立場に立ちたいと考えるようになり、当時最大の顧客であったアメリカンエキスプレスに移り、その後ナビスコのCEOに就任。 ナビスコの業績は向上していったものの、投資銀行が見込んだほどの利益が得られないことから引き上げたがっていることがわかり、自らもナビスコの引き際を考えるようになっていたところに、当時メインフレームの地位低下によって業績が下降を続けていたIBMのCEOに要請を受ける。IBMの当時の状況は非常に危機的で、受ける気は全く無かったが、難しい問題にやりがいを感じた、IBMがアメリカにとって単なる大企業以上の存在であることなどを就任に強い熱意を持って頼まれたことなどから、CEO就任要請を受けることを決意した。
当時のIBMの直接的な問題点としては、事業の中心であったメインフレームの価格が急落し資金繰りが苦しくなっていたことが挙げられる。そのため、メインフレームの値段を上げて絞れるだけ搾り取ろうとしていたが、それでは市場での信頼やプレゼンスを失ってしまうため、競合に合わせた値下げを指示した。幸運にも、IBMにいる技術の天才達がその当時取り組んでいたバイポーラ型からCMOS型へのアーキテクチャーの移行が成功し、競合とのコスト競争力が大幅に向上したことで値下げ戦略を順調に進めることができた。それでも資金繰りは苦しく、無駄だったり利益をあまり生まないような資産や事業は売却していった。また社内の硬直した官僚的な組織がコストを高くしていたこともあり、大規模なリストラに着手し、規則ではなく原則で行動すること、自分の所属する部署ではなく、常に全体の利益を考える社内文化に変えることを目指した。
当時、IBMは解体してノンコア部分は売りさばくべきだという意見が社内外でも多かったが、顧客が求めているのは各々の技術ではなく一つのソリューションであり、それを実現するためには様々な技術を組み合わせることが必要であり、総合的なサービスを提供できるIBMにとっては総合的な強さは大きな強みになるのではないかと考えていた。そのため、戦略としてはIBMは一つに保持し、分割は行わないこと、事業を顧客の視点から見直し再構築することなどを挙げた。 こうしたことを実現するためには目新しいビジョンよりも断固とした実行と地道な行動が必要であったが、一部のマスコミはこの地味にも取れる判断に対して批判的であった。
改革の重要要素として組織の改革が挙げられるが、まず経営幹部の人事について。IBMにような伝統ある大企業には内部で上手く使われていない有能な人材が数多くおり、外部から人材を引っ張ってくることは知識流失やモチベーション低下などマイナスになりかねない。そのため、自分は内部の人材を起用することを心がけた。反面、取締役は社内の決定に客観的で厳しいチェックをしてもらう必要があるため、役員数を18人から12人に減らして外部の人材を招いた。
次に世界規模での組織の改変であるが、IBMはビジネスを全世界に展開しているが、それぞれの地域での組織が独立しており、それぞれ自らの利益を最優先にし、様々な地域にビジネスを展開している顧客に対して、グローバルなソリューションを提案することが難しかった。またIBMの特徴として強力な技術開発部の存在があるが、地域、技術に強みがあっても、顧客の立場に立って考える部署が無いことが問題であった。それを解決するために、強い抵抗を乗り越えて、地域別であった組織を産業別に再編した。各部署で統一的な行動をとれていないことは広告戦略にも当てはまり、それぞれの部署で別々の広告を打ち、重複による無駄が生じていた。しかしIBMのブランド力は依然協力であるため、広告戦略を全社で統一しすることでe-ビジネスという標語により、この分野でのIBMの地位を確固としたものにした。
次に取り組んだのが給与体系であるが、IBMは終身雇用を前提とした家長父的な体系であり、業績に連動しておらず、人によって差がつかない仕組みになっており、これらの変革から手をつけた。 また、成果給としての有効策としてストックオプションであるが、IBMでは創業者の意向で用いられてこなかった。働く人達には長期的な株主のように考え行動してもらうこと、各部署の利益ではなく、全社の利益を基準とすることで一丸となって事業に取り組んでもらうこと、を考えてストックオプションを導入した。特に階層の上位にあたる役職には給与における株式の割合を多くし、全社における利益に対するコミットメントを高くすることを考えた。
これまでは危機的な状況に陥ってしまったIBMを立て直すための応急処置についての記述であったが、次から述べるのは、新しいIBMのためのビジョンとなる話についてである。 まずこれまでのIBMの簡単な歴史について、これまで、同じ会社によるコンピュータ間でのソフトウェアの互換性がなかった時代に、IBMが機種間での互換性を保障し、規模の大小に合わせたラインナップを揃えたメインフレームであるシステム360によって市場を席巻し、会社のシステムも、半導体開発からソフトウェア開発、技術コンサルタント的スキルを持った営業など、 メインフレームのビジネスモデルを中心に組み立てられていた。当時のシステム360が圧倒的であったため、会社内では社外の競争相手を見る必要が薄まり、内向きな企業文化が形成されてしまったこと、独禁法による恐れから、徹底的に競争相手と戦う姿勢が失われてしまったこと、などの負の側面もあった。 こうした絶対的なメインフレーム時代を終わらせるきっかけとなったのが、Linuxなどのオープンなプラットフォームの出現である。それによって、ソリューションの一部に特化して戦える企業が現れるようになる。またそれに追い討ちをかけたのがパソコンの台頭であり、それを読めなかったことにより、OSやCPUの主導権を他社にみすみす渡してしまうことになる。力をつけたPC産業が次に狙いをつけたのが法人向けのサーバクライアントであり、一般向けのウィンテルモデルとの互換性を武器にIBMのメインフレームと真っ向からぶつかるものであった。
しかし、各企業が自分の得意分野で専門化して、最終的にそれを組み立てる水平分業モデルは、顧客の側からするとどのサービスを選択すればよいか悩むことにもつながり、IBMの持つ広い分野の技術や知見は、そうした統合的なソリューションを提供する際の大きな優位性になると考えた。もう一つの希望として、これからは単一のPCからネットワークに主導権が移ることが挙げられる。ネットワークが普及すればPCは唯一の情報端末 ではなくなり、ネットワーク機器の需要と共に、それらを管理するためのインフラ製品の需要が高まる。またネットワーク化された情報管理者の権限は大きくなり、顧客としてIBMがこれまで慣れ親しんだ上位役職とのアクセスが重要になると考えられる。
まず、IBMをサービス主導の組織に改変するために営業部門の下にサービス部門を設置、グローバルな体制を整えたところで独立した部門とした。サービス部門は顧客の要望によってはIBM以外のソフトやハードを薦める必要もあり、サービスを中心に据えた教育や考え方の浸透を図った。 ソフトウェアの強化にも力を入れた。今後、コンピュータ業界で大きな利益をもたらすのは、ネットワーク化したコンピュータを管理するためのミドルウェアであり、そこの注力しつつ、それらの技術を持つソフトウェア会社を次々と買収していった。
次に科学的業績が非常に大きいIBMの研究開発部門であるが、それらの発見が業績に結びつかない理由として、製品部門がメインフレームと競合することからそれらの発見の製品化に及び腰であったことが挙げられる。こうした科学的発見を業績に結びつけるために特許のライセンス供与を始め、それらの技術を利用した部品の販売を行うことで大きく利益に貢献できるようになった。個別のサービスに適応するためのカスタマイズ半導体は高度な技術力が必要であり、ネットワーク機器などの需要によってその利益も大きく業績に貢献するようになった。
次に焦点を絞ることについて。IBMは個別の顧客の要望に沿うアプリケーションを数多く開発していたが、それら全ての領域でトップクラスであり続けるのはもはや不可能になっていた。さらにそれらのアプリケーションを専門化して扱う会社を敵に回すことで、それらの会社がIBMと他のハードウェアを初めとする製品群を顧客に薦めることによる機会損失も大きいため、アプリケーション事業からは撤退し、それらを開発する会社と提携することでアプリケーション以外の部分でIBMの製品を薦めてもらえるようにした。同じようにネットワーク事業など、IBMの基幹とは成りえないと判断した事業からは撤退の道を選んだ。 インターネットの発展によるコンテンツの囲い込み争いやプロバイダ事業、ブラウザの開発にも加わらず、そうした企業と競合するつもりではなくそれを助けるソリューションの提供に徹することを示した。そしてこれまで非公開にすることで顧客を囲い込むことを狙ったIBM製品の仕様をオープンにすることで幅広いクライアントに使ってもらうための基盤作りを進めていった。
IBMの経営やこれまでの経営で学んだことについて3つの基本的なテーマが挙げられる。1)事業を絞り込むこと、2)実行面で秀でていること、3)顔の見えるリーダーシップが行き届いていること、の3つである。
事業を絞り込むことについて、企業が自分の得意でない分野に進出して成功する確率はかなり低い。本業が困難に見舞われたらあくまでその問題を解決することに力を注ぐ方が多角化に比べると実際にははるかに容易なのである。 しかし実際にはそうした多角化を進める経営者は多く、多角化の際に買収欲にはまってしまう場合が多いが、買収によって短期的に株価が上がるからと勧めてくる投資銀行には要注意である。実際に経営について深く分析をしていれば投資銀行が薦めてくるような買収案件で良いと思われるケースは稀である。実際これまで経営者として扱ってきた案件に投資銀行が薦めてきたものは一つもなかった。 事業を絞り込む際の難しさは現行の各事業から不利な情報が出てきにくいことがある。また選択の決定にあたって資源を振り分ける際も困難が伴い、今まで儲かっていた事業がより多くの予算を受け続けることになりがちで、新しい事業の芽は往々にしてつぶされてしまうことが多い。そのため、経営者がその芽を守ってやる必要がある。
次に実行に関してであるが、自ら経営コンサルタントとして経営に関ってきた時からの経験であるが、戦略面で競合と大きな差をつけることは難しく、実際には戦略をいかに徹底して行うかの方がはるかに重要であるケースが多い。優れた戦略があっても業績が伴わないのは、実行に関する評価が行われていないからである場合が多い。卓越した実行を行うための要因として以下の3つを挙げられる。まず日々の業務での卓越した業務プロセスが存在すること、次に社員の全てが深く理解することのできる戦略の明確さ、最後に、卓越さが賞賛され競走意欲の高い、好業績をはぐくむ企業文化が挙げられる。
最後の、顔のみえる指導者であるが、これが最も大切な要素である。顔が見える指導とは、組織の全員にとって顔が見えるものでなければならず。偉大な経営者は自ら問題に取り組み、他人の仕事を統括するだけの立場にはならない。また情報交換、対話を大切にする意思が在ることであり、戦略と業務のどちらも重視する姿勢でもある。だが一番大切なのは競争に勝とうとする情熱でありその熱意は組織に伝播し好業績を好む企業文化を創り出す。誠実さも重要である。経営者は多くの従業員を評価する立場でもあるが、それが一貫した規律にしたがっていないと士気が失われる。そのため経営者は常に公平さを心がけなければならない。
(その他にも企業文化やIT業界の今後の動向についても述べていますが省略)
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