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私塾のすすめ
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これまで梅田氏は何冊か対談書を出していて、人はどのような意義を感じてWebを利用するのか、Webによりどのようなモチベーションを得ることができるのかなど、Webにおける人間性をテーマの中心に据えた「ウェブ人間論」、ポジティブにWebの拡大について論じ合った「フューチャリスト宣言」(テーマとしては発散気味でタイトルに編集者の苦悩が見られます)などが出版されました。
本書の対談相手は教育方面などで著名な齋藤孝氏です。齋藤氏はウェブはほとんど利用しないということもあり、今回の対談は必ずしもWebを中心とした話ではありません。本書のテーマとしては、齋藤氏は上達論や自己形成を自身の中心テーマの一つとして持っていて、一方で梅田氏はロールモデルという、自己形成についてのモデルを持っていることから、これからの時代、いかに人は自己形成を図っていくかについてを中心に対談は進んでいきます。
自分が本書での最大のテーマとして受け取ったのは「間接的な志向性の共有による自己形成」でしょうか。梅田氏は志向の共通する人を見つけることの大切さを説いていて、Webがそのような共通する人を見つける手間を低くしてくれると同時に、様々な志向性と出会うことで自分にあった志向性を見つけることを手助けしていることに言及しています。
一方で齋藤氏は他の著書でもよく、"あこがれにあこがれる"という表現を用いて、人が誰かにあこがれるのは、あこがれの対象となる人の能力や性質よりも、その人が何かに打ち込む様(あこがれ)、に対して惹きつけられることを述べています。実際にあこがれを抱く人となかなか会うことができずとも、志を同じくする人が存在し、その志に向かう情熱の様をしることができれば、そのあこがれに引っ張られる形で自分の中にそのあこがれ(志向性)を維持することができるのではないかとしています。
こうした志向性やあこがれが共通する人を見つけることが自分の志向性を知る上でも、その志向性を伸ばしていくためにも大切です。ですが、見つけた後にその人との関係を現実世界で維持するのはなかなかコストがかかってしまいます。そうしたことから梅田氏はブログなどのWebツールを用いてその人の活動をトレースしたし、意見交換するなどの緩い関係で自己形成を図ることを述べています。
それに対し齋藤氏は、自分の中にそのあこがれの対象となる人のモデルを持ち、自己内で対話することで自分のあこがれを再確認するための自己内対話力に注目し、その例として読書を取り上げているのがとても面白い点です。
読書では読者は書き手と直接対話することはできません。ですので多少なりとも噛み応えのある本を読もうとすると、書き手がどのように考えてその文章を書いたのかを絶えず自分の中で考える必要があります。そうした作業を通じて徐々にその書き手の考え方や志向性のモデルを自分の中に築くことができます。読書において本からどれほどの洞察が得られるかはこうした自己内の対話力が鍵になりますが、同じことを出会った人間から何かを得ることに対しても当てはまるのではないか、としている点が齋藤氏らしい見解で興味深い所でした。
梅田氏も大量の本を読むそうですが、特にロールモデルを発見するための読書が多いと述べています。梅田氏が自身のワーキングスタイルを見出すきっかけとなったシャーロック・ホームズの例のように、本の著者や描かれている人物のモデルやスタイルから自分のモデルを得ようとしている点は齋藤氏とも共通しています。
Webの可能性について述べたウェブ進化論が有名な梅田氏ですが、これまでの対談書やウェブ時代をゆく、などの著書の流れを見てみると、自分の志向性を発見し、それを育むことに対する梅田氏の強い興味がわかり、Webはその志向性を育むための先端の機会として捉えられていることが伺えます。
本書では、対談両者それぞれのスタイルの自己形成について、主に梅田氏がWebなどの間接的な関係から、齋藤氏が読書などの自己内対話からのアプローチを述べていて、それぞれのスタイルが感じられて面白いです。「私塾のすすめ」というタイトルも本書の内容をよくまとめていてしっくりします。
本書では他にも齋藤氏の教育観や梅田氏の仕事観が述べられています。Web上での自己形成に限らず、独学に興味のある方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
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