Orfeon Blog
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ウェブ進化論
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著者によるとウェブ世界での潮流として、仮想空間上でコストゼロで通信できる「インターネット」、技術革新による高機能サービスの低価格化として「チープ革命」、一つの仕事を複数の人が無償で行う「オープンソース」の3つを挙げていて、これらの潮流の結果、「神の視点からの世界理解」、「ネット分身経済圏」、「塵も積もれば高付加価値」の3つの動きが現れるとしています。
こうした流れを最大限体現している企業として、Googleを挙げています。Googleの特長として、とびきり優秀であること社内の人材が情報を完全に共有するマネジメントでめざましい効果を挙げていることや、世界中の情報を再構成するという遠大な構想を実現するために情報やそれを処理するシステムをインターネットのあちら側に置いたこと、アドセンスの仕組みによって情報の再構成のみならず、富の再分配システムまで構築してしまおうとしていることを挙げています。こうしたことを行うためにGoogleは技術をひたすら信奉し、自動化によって人が介在しないことで自立的で平等な情報の秩序を打ち立てようとしていることを強調しています。
またウェブ関連でよく使われている概念である「ロングテール化」にも触れていて、今までは「80対20の法則」、「ウィナーテイクオール」などと言われているように、一部の有名なサイトだけが多くの人を引き付けていたのが、検索技術の進歩などで、サイト閲覧者の本当に興味のある情報を簡単に見つけられるようになると、今まではそこそこ有用な情報を載せていながらも知名度の低さでほとんど見向きもされていなかったようなサイトが分相応のアクセスを得るようになり、またそのサイトにアドセンスなどで広告などの付加価値を付ければ塵も積もって大きな利益につながるとしています。そのためには自社が「インターネットの向こう側」に構築している情報をAPIを通じてみんなに使ってもらうことが重要になるとし、またインターネットの向こう側に作ったAPIはそれが持つ情報量から従来のOSなどのAPIよりもはるかに大きいメリットを開発者に提供し、その結果そのプラットフォームのサービスが充実するという好循環が発生するとしています。
またブログが多くの人に気軽に文章を書く機会を与えたことから、これまでよりはるかに多くの意見がネット上で存在するようになった。そのため従来のメディアなどで権威者だった書き手の権威が相対的に低下するであろうこと、またいままでの検索技術に加え、パーソナライズ化やソーシャルブックマーク利用などを通じて、プッシュ型の配信が行われるようになれば、より表現者になるための敷居は低くなり表現者としての権威を確立するのが実力次第になるものの、そこでの競争は激しく、またブログなどの記事が片手間に書かれることから報酬が小さくなってしまうという、プロの供給者としては厳しい時代になるであろうことを示唆していますが、今後はテキスト情報だけではなく、映像などのマルチメディア情報での検索技術の向上が必要となることなどから、従来の権威構造からの表現者の地位はそう簡単には低下しないだろうともしています。またブログの個人的意義としてはブログを通じた自分の情報開示による人脈構築や、フィードバックによる自己の知的成長を挙げています。
次にオープンソース化について、たくさんの人が協調作業することは衆愚につながるのではないかという疑問に対して、本書では楽観的な見方を示していて、そこそこの精度なら大勢で作っても使えるものになるのではないかとしています。こうした疑問が起こるのは先にも述べたように従来の権威者の権威の失墜を恐れたものであるとしています。またこうした個人が自分の利益を追求して全体の利益につながる仕組みを構築するためにはネットのあっち側全体の情報を使って神の視点から有意な情報を抽出することが大切であるとし、個々人のラベル付け情報をネットのあっち側で集積した情報を協調フィルタリングなどを用いて個人の検索にフィードバックさせたり、SNSでの人的ネットワークから情報を抽出して、検索クエリに対して誰がその分野に精通しているかをランキングしたリストを返すシステムなどを例として示唆しています。こうした不特定多数の情報をテクノロジーによって自動的に組織化することが今後のテーマになるだろうとしています。
本書ではインターネットのあっち側とこっち側、不特定多数を信頼するか信頼しないか、という2つの軸でこれまでのコンピュータの進化を振り返っていて、マイクロソフトによる遍くPCを普及させることがインターネットのこっち側の充実、Googleによる検索サービスをインターネットのあっち側への転換とし、今後は次の軸である、不特定多数の情報をいかにまとめるかが大切であるとしています。こうしたイノベーションに筆者が若い世代に強く期待していることなどが最後に述べられています。また検索技術などの向上によって情報共有が進むとそれまでの知識が今まで以上に速くコモディティ化してしまうことにも述べていて、自らのスキルに対して戦略的であることが必要であるとしています。
本書はロングテールやWeb2.0などの用語についても簡単に説明がなされていて、ウェブがこれからどういう方向に進むのかについて、あくまで著者の持つイメージだが非常に明確に知ることができます。またその技術が社会にもたらす可能性も、厳しい話もあるものの、とても面白いもので、こうした技術に対して楽観的に構えることがイノベーションを生むという姿勢も勇気付けられるものでした。ウェブの技術やビジネスに興味のある人にはぜひお薦めです。
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